08
お父さんはいつも、晩酌に焼酎を飲んでいる。
そんなお父さんが今日定年の日を迎えた。
今日は焼酎ではなく、日本酒だった。
母が買ってきたらしい。
すごく高そうなお酒だった。
お父さんは、小さな町工場で40年間働いてきた。
会社が大変な時期もあったけれど、お父さんは愚痴ひとつ家族に言ったことがなかった。
私はそんなお父さんを誇りに思っている。
裕福とは決していえないけれど、幸せな家庭で私は育ったと思う。
お父さん、今まで本当にありがとう。
そして、お疲れ様。
お父さんは、その人生をどう振り返っているのだろうか。
お父さんは、母とお見合いで結婚した。
寡黙で自分から女性に声をかけるようなタイプではないと、誰もが思うだろう。
結婚をして子供を2人授かり、家族のために一生懸命に働いてきた。
そんな人生をお父さんは今どう思っているのか、聞いてみたくなった。
お酌しながら母がお父さんにお疲れ様と、何度も何度も頭を下げていた。
心なしか、お父さんの目が少し潤んでいるようだった。
私が子供の頃、お父さんはよくビールを飲んで、テレビで野球を観ていた。
応援しているチームが勝つと機嫌が良く、負けると不機嫌になった。
そんな日は近寄らないようにして、子供部屋で妹と遊んでいた。
野球を観なくなってから、晩酌もビールから焼酎に変わった。
その理由もいつか聞いてみたい。
今日はお風呂に入ってからちゃんとお父さんにお礼を言わなければと思っていた。
そして、明日からは、お父さんの人生のはじまりだねと言いたかった。